2000年3月期に日産自動車は、6843億円の連結決算赤字を計上して、製造業として過去最悪の赤字決算として話題になりました。さらに、翌年決算では3311億円という同社の過去最高の黒字決算を計上したことでも注目を集めました。日産リバイバルプランの象徴ともいえるこの劇的な決算数値のV字回復後、同社の業績は順調に推移し、株価も2000年3月末の420円から、現在(2005年6月14日現在)は1,000円を超えるまで回復しています。
日産のV字回復は会計上のマジック?
では、この業績のV字回復の中身はどのようなものであったのでしょうか?2001年5月27日日本経済新聞朝刊の記事を参考に見てみると、2000年3月期の日産の巨額損失が主に特別損失の計上によるものであったことが分かります。工場閉鎖、早期退職割増金などを一括してその期の損失に計上し、さらには減価償却方法の変更による損失の計上や含み損のある不動産の売却や評価替えなどで7496億円もの金額を特別損失として計上しています。
さらに翌年3月期には、含み益のある不動産の売却や、減価償却費の定率法から定額法への変更などで、最終利益がかさ上げされています。総合的に判断すると、2001年3月期の決算数値のV字回復は、周到に計算された「会計マジック」を用いたものであったと言えましょう。2000年3月期に、史上最高の赤字を計上することにより、社員の危機意識を高め、さらにはサプライヤーに対しても値下げ要求をしやすい体制をつくる。そして翌年度の劇的に回復した決算数値により、日産の社員に「頑張れば業績回復出来る」という自信を与え、外部に対しても日産の復活を強烈に印象づけることができたのではないでしょうか?
疑問を持って決算数値を読もう
このように、会計(決算)数値は、「操作」が可能であると言えます。つまり、単一の解答(利益数値)が存在するわけではなく、会計数値は経営者の異なる作成意図により、そして異なる会計処理方法により複数の(あるいは無数の)解答を持つわけです。そこで企業の財務報告を分析する際には、数字だけに注目するのではなく、その決算数値が「どのような意図によって」、「どのような会計処理方法を用いて」作成されているのか?と常に疑問を持つことが大切になります。
日産の例では、経営者が会計数値を用いて業績の劇的なV字回復を演出することにより、社員の自信を取り戻し、外部取引先と有利に交渉できるようになり、投資家には鮮烈な業績回復を印象づけることで株価が上昇しました。
経営者が会計数値を操作するインセンティブはこの他にも様々です。いくつか例をあげてみます。
●粉飾決算
経営者の地位の保全や金融機関からの融資を受ける、赤字決算を避ける(公共事業に携わる建設会社など)ために、業績を良く見せかける。
●業績連動報酬
会計数値と経営者の報酬がリンクしている場合、自らの報酬を増やすために業績を良く見せかける。
●ストックオプション
株価を上昇させるために、株式市場にポジティブ・サプライズ(業績の劇的な回復、最高益の計上)を与えることを目的とする。
●ビッグバス(Big bath)
経営者が交代した場合などで巨額の損失を計上する際、前任経営者の責任にしてしまう。そして、次期以降の会計数値の改善を印象づけることができる。
●財務制限条項
運転資本をある一定レベル以上に保つなどの条件付きで金融機関などから融資を受けている場合、その条件に抵触して債権者から融資返済を迫られることを避けるために、業績を良ように見せかける。
これらの会計数値操作のインセンティブに関しては多くの研究が行われています。また機会を改めて詳しく紹介していきたいと思います。
NIKKEI NET (2005/06/15)より
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